08.民事再生法を活用した病院経営の再建手続き ■
2002.7.25/弁護士 澤田有紀
[1] はじめに
民事再生法が施行されて数年経つが、医療法人の利用例はまだ限られているようである。医療法人の場合、医療機器や病棟の保守などのために、新たな設備投資を続けることが宿命となっており、病院設立時の借財を抱えたままであると、債務の弁済が相当経営を圧迫している例が多い。このような場合に、過去の負債を一気に整理できるという点で法的整理の選択は有効である。医療法人の場合には会社更生法は適用外であるから、民事再生手続活用の重要性は高い。民事再生法を活用した病院経営の再建方法としては、最長10年間にわたる再生計画を履行して自力で再建する方法や、スポンサーによる出資・融資や営業譲渡などの形をとって、短期一括弁済で債務を整理する方法が考えられる。本稿では、申立代理人の立場で、医療法人が民事再生法を活用する上で特に問題となる法的・実務的問題点について論じることとする。

[2] 申立に際して考慮すべき点
1 申立後の資金繰り
(1) 申立の際、裁判所から日繰資金繰表の提出を求められる。医療法人の場合は、民事再生を申し立てても、従前通りの体制で診療を継続している限り、極端な患者離れが起きることは考えにくい。入院患者を多数抱える病院ではなおさらである。したがって、申立後も窓口現金収入、社会保険、国民保険の診療報酬の入金が確実に見込めるので、申立直後の資金繰りの予定は非常に立てやすいのが特徴である。
(2) しかし、診療報酬債権を債権譲渡・振込指定・代理受領などの方法により金融の担保のために供している場合(一定期間の診療報酬を債権者の口座に振り込ませ、債権者が一定額を回収して残額を債務者に返還する方法による金融担保)には、困難な問題が発生する。
医療法人が設備投資のための資金調達をする際に、不動産担保による融資枠に限りがあること、病院の不動産担保価値が低く見られる傾向にあることから、一定期間の国民健康保険等の診療報酬債権を金融機関などに担保として供している例が見受けられる。
この場合、民事再生開始申立により申立人は期限の利益を喪失するから、債権者に振込まれた診療報酬が最悪の場合全額相殺され、申立後の資金繰り計画が立たなくなるのである。したがって、事前に債権譲受人である金融機関との調整をすることが必須となる。
(3) ここで、このような類型の別除権の担保評価がどの程度まで認められるべきかという点については、問題がある。民事再生法では、別除権は民事再生手続によらず権利を行使できる(法53条2項)とあるが、別除権の行使により回収できる範囲が問題となる。
債務者が破産を申し立てて、業務を停止した場合、別除権者が回収できるのは、業務停止前の診療報酬で、未入金のものということになるから、通常2ヶ月分程度の診療報酬にとどまるはずである。
しかし、民事再生申立により再生債権の弁済を一旦凍結して業務を継続することで、債権譲渡の期間満了まで、別除権者は診療報酬を受領することが可能となり、その結果、清算価値を大幅に上回る債権を回収することができる。別除権者とすれば、一旦自己の管理下に診療報酬債権が入金される以上、全額を回収することは当然のことと考えるから、申立後数ヶ月間で債務全額を弁済する内容の計画を提示がなければ、診療報酬の解放に応じることは困難であろう。債務者としては、返還を求めて法的に争う時間的余裕がないのが通常であるから、大幅な譲歩を強いられることが予想され、民事再生の申立の際に、資金繰りの面で最大のネックとなる。
しかし、一方的に別除権者の言いなりにならざるをえないとすれば他の債権者を大いに害することとなるので、担保権の実行としての競売手続の中止命令(31条)を非典型担保権に適用するなどの柔軟な対応を裁判所に期待したい。また、担保設定の時期によっては、監督委員の否認権行使の対象ともなろう。
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(C)弁護士法人みお綜合法律事務所(大阪弁護士会所属 代表弁護士澤田有紀)