08.民事再生法を活用した病院経営の再建手続き ■
2002.7.25/弁護士 澤田有紀
2 関係機関・取引先等に対する関係
医療法人として、特に注意すべき点は、業務の停滞が患者の生命・健康にかかわる事態になることである。監督官庁は、医師・看護師などの医療スタッフの数が十分確保されているか、医療材料の調達に問題がないかなどの診療体制について監督すべき立場にあるので、民事再生開始申立後すみやかに立ち入り調査の実施がなされ、万一、問題があると判断すれば、診療停止などの処分がなされることも予想される。
混乱なく、外来診療・入院診療を行うために、材料納入・衛生管理・施設修繕等の多数の取引業者に協力を仰ぐ必要がある。したがって、取引業者に対しては特に少額弁済の許可を得ることを、保全処分を申し立てる際に十分検討しなければならない。また、医療スタッフの確保についても十分に対応し、不安を取り除くことが必要であることはいうまでもない。
   
3 患者に対する関係
新聞等で、病院の民事再生申立が報道されると、患者についても少なからず動揺がおこることが予想される。従来どおりの体制で診療を続けている旨を広報する必要がある。

[3] 別除権者との交渉
1 リース
医療法人においては、設備投資のサイクルが短く、高額な医療機器や設備一式をリースで導入している例が多いため、リース債権の問題について取り上げる。リース料債権の法的性質については、会社更生手続において、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約により物件の引渡しを受けたユーザーにつき会社更生手続の開始決定があった場合、未払のリース料債権は、その全額が更生債権となるとした最高裁の判例(最高裁平成7年4月14日第2小法廷判決・民集49巻4号1063頁・判例タイムズ880号147項)の趣旨からすれば、未払リース料債権は共益債権ではなく、その全額が再生債権となり、リース会社はリース物件について債務者が取得した利用権についてその再生債権を被担保債権とする担保権を有するものとして、交渉することに実務的に問題はないと思われる。
債務者は、リース物件の残存価値を基準とした金額を弁済することでリース物件の所有権を取得する旨の交渉をすることとなる。
なお、リース物件に対する担保権消滅許可申立(法148条1項)の可否について争われた事案で、棄却決定がされた例がある(大阪地方裁判所平成13年9 月19日第6民事部決定・金融法務事情1636号58頁)が、この事案では民事再生開始決定前にされたリース契約の解除を有効として、リース会社が利用権に制限のない完全な所有権を有しているとして、担保権消滅許可を棄却したもので、そもそもリース物件に担保権消滅制度の適用があるかどうかについての判断はなされていない。
また、民事再生開始申立を理由にしたリース契約の解除が認められるかどうかについて、会社更生手続では、担保権者も手続に全面的に服すべきもの取られているのに対し、民事再生手続では別除権として再生手続によらずに行使することができるとされているという手続き上の差異があるため、会社更生手続と同様には解されるかどうかについては争いがあるところである。ただ、本決定後、リース会社からは、民事再生開始申立を理由とした解除通知がなされることが多いようである。
   
2 所有権留保
所有権留保の割賦支払契約で医療機器を購入した場合も、リースの場合と同様に、残存価値を基準として残代金の支払総額・方法を交渉することとなる。
   
3 患者に対する関係
再生のため、診療の継続に必要な物件で、医療法人が所有する物件に担保が設定されている場合は、担保権者と「受戻協定」(物件の価値に見合う金額を支払うことで担保権を抹消する旨の協定)を締結するための交渉をすることとなる。再生計画に必要な事業物件について受戻の合意ができず競売などの法的措置がとられる可能性が高い場合には、再生の見込みがない場合に該当し、再生計画の認可はおぼつかない。
病院の底地や建物が個人所有となっている場合や別法人が所有する形態になっている場合、不動産所有者も同時に民事再生を申し立てていれば問題はないが、そうでない場合には、受戻協定を締結するために医療法人に所有権を移転することが必要となる。けだし、別除権は「再生債務者の財産の上に存する」(法53 条1項)場合に、「再生手続によらないで、行使することができる」(同条2項)とされており、再生債務者は、別除権の行使として再生手続によらずして弁済ができるのは、自己の財産に設定された担保権の被担保債権に限られるからである。
申立時には別人所有であっても、別除権受戻協定締結時に再生債務者の所有となっていれば、別除権受戻協定の中で弁済が可能と解される。
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(C)弁護士法人みお綜合法律事務所(大阪弁護士会所属 代表弁護士澤田有紀)